オホーツクから脱出!!旅ゆけば - 川嶋純 旅のコラム
   
第1話 姫路城編 写真

 他人の旅行の話は聞いていて面白いものではない。
 当の本人は、あれもこれも話して聞かせたいものなのだが、聞かされる方にしてみれば大いに退屈で迷惑なものだ。これは、旅行なんてできないと思っていた「貧乏」はあっても「ヒマ」のない人間が、旅行をするチャンスに恵まれ、その記録を残したいだけのものなのだ。
  今では、地図と時刻表があれば、どこへでも気軽に行くことができるようになったが、最初の一人旅は少々心もとなかった。ことに出発した日の夜行列車でビルの谷間を曲がりくねって走っていると、この列車は俺をどこへ連れていくのだろうなどと余計なことを考えたりして、心細い思いもしたりした。

 最初に、足を踏み入れたのが姫路市だった。子供のころから姫路城にあこがれていたからだ。「兵(つわもの)どもが夢の跡」や豪壮華麗な城の栄華の跡を見たかった。
 姫路では姫路城が観光の大きな目玉の一つだが、古典文学「徒然草」にたびたび書かれている「書写山円教寺」、井原西鶴の「好色五人女」で有名になった、お夏、清十郎の墓がある慶雲寺など観光スポットは多い。
 新幹線が姫路市へ近づくにつれて、城が大きく見えてくる。姫路城はこんなに大きいのかと思うほど、どんどん目の前に迫って来る。
 旅をしていると、「おれは、どうしてここにいるのだろう」「こんな山奥に、このような大きい建物をどのようにして造ったのだろう」と思うことがよくある。それはここでも同じだった。
 やはり大きい。大手門には「国宝、世界遺産姫路城」の文字が石碑に刻まれていた。城内のどこを、どう歩いたのか分からないが、鎖で囲まれた井戸の前に出た。
 城は戦のために造られたが、幸いにしてこの城は戦を知らずにすんだ。しかし、「お家争動」がおこり、その時に烈女お菊が活躍をしたのだが、最後に斬られてこの井戸に投げ込まれてしまった。「お菊井戸」と称するものがこの城に現存している。例の、井戸から幽霊が出て来て、皿を一枚二枚……と数える、お菊幽霊の話、「番町皿屋敷」。発信地はここだったのだ。しかも、その井戸なのだ。
  浄瑠璃「播州皿屋敷」は、このお菊事件を換骨奪胎したもので、関東では「番町皿屋敷」、関西では「播州皿屋敷」と言うらしい。 陽当たりのいい、広い敷地の中にある四角い井戸には、蓋をするように金網が張ってある。金網の目から井戸の底から伸びた雑草が首を出している。その草がお菊の化身だと騒がれた時代もあったというが、今は暗いイメージは全くなく、ここから怪談が生まれたとは考えにくい所だ。
  怪談といえば、この城にはまだ余り気持ちの良くない所がある。「腹切丸」という名の櫓だ。旅行に出る前に知人から「姫路城へ行くなら「腹切丸」をぜひ見て来なさい。そこは切腹したり、人の首を斬った時に飛び散った血が壁に付いていて、今でも黒く残っているから、気持ち悪いけど面白いよ」、と観光案内された。姫路城には長い塀がたくさんあるが、その塀の一つから地下へ潜るように階段を下って行くと「腹切丸」の目の前に出る。間口十メートル、奥行四メートル位、中の一部には床を一メートルほど高く、舞台のように造ってある。壁には血の痕らしい物は無く、黒い染みだけがたくさんある。

「あの高い舞台の上で切腹するんだろうか」
「いや、あそこじゃ介錯する時に、刀が天井にぶつかるよ、下の方だろう」
「あれが首を洗う井戸だな」
そこを訪れた人たちは、勝手に想像しながら話し合っている。
防御のために造られたものだが、猟奇的な話しを作るのには道具建が揃いすぎたようだ。舞台のような石打棚が検死役人の席で、下段が切腹の場、中庭の井戸が首洗い井戸、それに名前が腹切丸だ。ところが、近くにある立て札に、「ここで切腹をしたと記録には残って居りません」と書いてあった。
 城は不浄を忌むので切腹をすることは禁じていた。また、そのような場所を造るわけがない、という。後の人がそんな話を作り、それが伝説化されたのか、観光パンフレットにも、それらしく興味をそそるように書かれている。ただ、余計なことを知ろうとせずに、単純に驚いたり珍しがったりして見て来た方が楽しいだろう。
 次階へ階段を上がって行くと、大抵の人が棟木に頭を、ぶつける。これは冑をかぶって階段を駆け登ると間違いなく頭がぶつかり冑がはずれてしまう。そこを、すかさず上から槍で突き刺す。これはもちろん戦略上そのように設計されたもので、それが未だに役に(?)たっている。 城は不浄を忌むので切腹をすることは禁じていた。また、そのような場所を造るわけがない、という。後の人がそんな話を作り、それが伝説化されたのか、観光パンフレットにも、それらしく興味をそそるように書かれている。ただ、余計なことを知ろうとせずに、単純に驚いたり珍しがったりして見て来た方が楽しいだろう。

 次階へ階段を上がって行くと、大抵の人が棟木に頭を、ぶつける。これは冑をかぶって階段を駆け登ると間違いなく頭がぶつかり冑がはずれてしまう。そこを、すかさず上から槍で突き刺す。これはもちろん戦略上そのように設計されたもので、それが未だに役に(?)たっている。今までどれだけの頭がぶつかったのか、この棟木も多くの頭に磨かれていい艶をしていた。「頭上注意」の札を掲げて喚起を促しているが、この札が、また曲者で「これは何だ?」と注意書きに気をとられているうちにゴツンとやってしまうのだ。もしかすると、あの札は作為的に掲げたのではないか、来城記念の思い出と土産がわりにゴツンと、一つどうぞと。
 城によっては、天守閣が土産物の売り場になっているところもある。ここでは神棚が据えられてあった。歴史を刻んだ世界遺産の中に売店がなくてホッとした。
  その昔、宮本武蔵がこの天守閣で妖怪を退治したという伝説も残っている。そんな話は嘘っぱちに違いないが、ここへ来ると、もしかするとこの話は本当だったのかもしれないな、などと思ってしまう。そんな雰囲気があるようにも思える。
  急階段ばかりだったから、天守閣まで上ると、さすがに足に疲れを感じる。
  せっかく、ここまで来たのだから「ご芳名帳」に名前を書いて行こうと思いたった。城を訪れた人たちが、備え付けのノートに自分の住所氏名を書きつけていくのだが、その書かれた一番最後の行に「北海道北見市高栄西町……」と、もう俺の住所が書いてある。
  「あれ、おれは何時の間に書いたのだろう」。一瞬自分で書いたと錯覚してしまった。遠い北海道の北見から、しかも同じ町内の人が来ていたのだ。と間もなく気がつき、あわてて周囲を見回したが、見覚えのある人の顔はなかった。未だにどんな人か気になっている。

 
   
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第1話

 姫路城編

第2話

 尾道編(1)

第3話

 尾道編(2)

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 忠臣蔵の赤穂編(1)

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 忠臣蔵の赤穂編(2)

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 「和ろうそく」の古川町編

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 源平合戦の壇ノ浦編

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 武蔵と小次郎の巌流島編

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