オホーツクから脱出!!旅ゆけば - 川嶋純 旅のコラム
   
第4話 忠臣蔵の赤穂編(1) 写真

 塩田跡


 もう、何年も前の話になる。
 赤穂駅で下車すると駅員が「播州赤穂」と書いたタスキと半纏を着て「忠臣蔵グッズ」を売っていた。
 市内を見回すと、通りの両側に「元禄繚乱」と染め抜いた幟がビッシリと立っている。ここは忠臣蔵の本家だ、とばかりにその雰囲気づくりに力を入れているのがうかがえる。
 NHKの大河ドラマ「元禄繚乱」が終わる年末まで、これらのキャンペーンを続けるらしい。赤穂を舞台にしたこのドラマは、この地を売り込むためにはこれ以上のものは無いのだろう。

 それにしても、人影はまばらで街の中はひっそりと静かだ。
 さらに、ここは日本国中に名をはせた「赤穂塩」の生産の地でもある。塩田の跡地へ行こうとして、駅で掃除をしていたおばさんに道を聞いてみた。
 「海浜公園にはどう行けばいいんですか?」
 「かいひん公園?かいはま公園でしょう?ここからは、まだ大分あるからタクシーで行ったほうがいいよ」
 ”かいはま”公園というのか?腑におちなかったが、タクシーに乗って、
 「かいはま公園まで」
 「ハイ、かいひん公園ですね」
 「…………」
 情けないやら恥ずかしいやら、バカヤロウと、さっきの奴に向かってどなりたかった。
 赤穂の塩田は、多い時で六千人もの人々が働いていたという。その塩田を見ておきたかった。
 昔、どこかの海岸で、下帯一つの人が海から天秤で潮を汲んできて、砂浜で塩を造っているのを見たことがある。赤穂でもそのような方法が残っているのかと思っていたが、元禄の頃でも満潮の時に、塩田に潮を引き、天日で乾燥し、また潮を引く、これを何回も繰り返す製法を用いていたらしい。
 いまさら、下帯一つでの作業なんてあるはずがない。そんな方法を期待する方がおかしいと、現地ではじめて気がついた。

 今は、近代化された工場で塩が大量生産されるようになった。そのため広大な塩田も不用になり、そこへ「赤穂海浜公園」として海洋科学館、塩の国、テニスコートなどがつくられた。「塩の国」は、海から運河のように疎水路をつくって潮を引き、昔ながらの方法で塩をつくって見せるのだが、潮汲み体験も出来るようになっている。



息継ぎの井戸


 次に「息継ぎの井戸」へ向かった。
 どこに井戸があるのかと、地図を頼りに捜しまわった。
 「息継ぎの井戸」とは、赤穂の殿様浅野内匠頭が刃傷事件を起こした時、早見藤左衛門と萱野三平が、危急の第一報を持って江戸城から赤穂まで四日半で走りぬいた。赤穂へ入ってから道端の井戸で水を飲み、身づくろいをして、一息ついてから、我が城へ向かって走り出した。その時の井戸が「息継ぎの井戸」といわれ、今も赤穂市内にのこされている。
 余り力んで説明したり、必見するほどの物ではないが、ここへ来たついでだから見て行くことにした。
 捜すのが面倒になって、通りすがりの人に井戸のありかを聞いてみた。
「その角を曲がったら直ぐです。ヒョウシンのそばですからスグ分かります」
"ヒョウシン"とは何だろうと思ったが、角を曲がれば直ぐに分かると言うから礼を言って、その人と別れた。
 今度は、井戸よりもヒョウシンの方が気になり出したが、教えられたとおりスグにわかった。
 あった、井戸が。そして「兵庫信用金庫」が。
 "ヒョウシン"とは、「兵庫信用金庫」を略したものだった。
 石で四角に囲んだ釣瓶井戸で、補修のための手の加え過ぎなのか、石に茶のペンキが塗ってある。ちょっと、立派でキレイに舗装されたヒョウシンの玄関前に居座っていた、風情も何もなかった。井戸に風情を求める方が無理というものだが、もう少し見ごたえのある所だろうと、わずかながら期待していたのだが。
 ただ、その由来を書いた高札がそばに立っているのが、それらしい雰囲気を少し感じさせるだけだった。
 何のことは無い、息継ぎの井戸ならぬ、息切れの井戸だった。



講釈師見て来たような


 ここ、赤穂の観光ガイドは、シルバー人材センターから派遣されたのか高齢者ばかりで、それに忠臣蔵の本家だけあって、かなり熱のこもった案内をする人達である。若いお嬢さんガイドよりも、浪曲調の老人ガイドの方が実感がこもっていて面白い。
  観光客もシルバーの修学旅行かと思うほどオジイさん、オバアさんばかりの団体だ。
 忠臣蔵を語るには、赤穂が最高で、これ以上の舞台はないだろう。これは、まさしく古色蒼然たる日本的オジイさん文化であって、オジイさん達にはピッタリの世界なのだ。 地元の人はもちろんのこと、観光ガイドの人たちは郷土の英雄、義士達を決っして呼び捨てにしたりはしない。
 「その時、浅野様は………」
 「四十七士の皆さんは流れる涙を………」
 たしか「講釈師見て来たような嘘を言い」こんな川柳があったが、まさにガイドは講釈師だ。力が入いる。感情がこもる。名調子で見て来たようなウソ(?)をトウトウとシヤベリまくる。うなづきながら聴いている方も、だんだん熱くなってくる。これだけ力を込め、感情移入したガイドをする観光地は、この赤穂をおいて他に無いような気がした。
 
   
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 姫路城編

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 忠臣蔵の赤穂編(2)

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